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「ジャン、そいつは男だ」
二人組のもう一人、サングラスを掛けた長髪の男がスキンヘッドの大男に向かって冷たく告げる。
「え? マジかよ、ピエール。 ちぇっ、女かと思ったぜ」
「それにそいつは殺すなと言われている」
スキンヘッドのジャンに素っ気無く答えるとピエールと呼ばれたサングラスの男はミッシェルに向き直った。
「ミッシェル・ド・ラヴォールだな」
それは、質問というより確認だった。おそらくすでにそれが間違いないことを確信しているのだろう。
ピエールの質問に対し、ミッシェルは答えなかった。いや、その質問さえ聞いていなかったというのが正しいだろう。彼はまだ、茫然自失な状態だった。目の前で斃れているかつての同僚の姿を焦点の合わない瞳で見つめ、ぶつぶつと何かを呟いている。
だがピエールはそんなミッシェルの姿を気に留める様子もなく、強盗には似つかわしくない黒のスーツの胸ポケットから、なにやら黒い機器を取り出した。黒い長方形の箱の先端に、二本の金属の棒のようなものが突き出している。どうやらスタンガンのようだ。
「ある方の命により、君を捕獲する」
ピエールが、静かにミッシェルの方に足を踏み出した。身体が少しも揺れることがない、独特な歩き方。暗殺を生業とする者に特有の、足音をまったく立てない歩行法だ。
「わぁっ、く、来るなぁ!」
ミッシェルが、今初めてピエールの存在に気がついたかのように、突然叫び声を上げる。先ほどまでの会話は一切耳に入っていなかったようだが、無言で自分の方に迫ってくるピエールを見て、命の危険を感じたらしい。デスクの上にあった金属製の物差しを引っつかんで、自分の身体の前でぶんぶんと振り回している。
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