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取り違えてしまった自分の携帯に何度も電話をかけていた。東京のど真ん中、公衆電話を見つけ、かけてはみるものの繋がらず、しかたなく、彼女の携帯から、着信を入れた。
もう7回目だ、自分の携帯の番号なんて記憶していなかった。かろうじて持っていた自分の名刺の自分の番号を繰り返した。まさか、こんな時に、無理やり作らされた名刺が役に立つとは。
諦めて、携帯を閉じると、サブ画面に自分の携帯番号が映し出された。
「もしもし」向こうでは、慌てる女性の声がした。場違いにも、可愛い声だと、江崎は思う。
「お電話ありがとうございました。今から、お会いできますか?」
丁寧な口調の彼女は今日中に会いたいと言った。江崎も同感だったので、今いる喫茶店を指定した。
彼女は「すぐ参ります」とだけ言って、電話を切った。
彼女を待つ少しの間、人物像に頭を回転させた。
ぶつかった時は一瞬で、細身のジーンズを履いていたことくらいしか覚えていない。
想像を巡らせていると、喫茶店のドアが開いた。
どこか見覚えのある雰囲気で、目が合うと小走りで近寄ってきた。
江崎は一瞬、胸がざわついた。
「間違っていたら申し訳ありません。江崎さんですか?」
それを聞いて、江崎が微笑むと、彼女はほっとしたように、息をついた。
肩が揺れていた。きっと、走ってきたのだろう。
ちょうど注文してあった、アイスコーヒーがきた。
「良かったら、飲んで行って下さい」
江崎は右手を向かいの席に向かって出し、座るように促した。
彼女は迷っているようだったが、すぐに腰を下ろした。
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