ふたりの出会い。

2/4
前へ
/23ページ
次へ
取り違えてしまった自分の携帯に何度も電話をかけていた。東京のど真ん中、公衆電話を見つけ、かけてはみるものの繋がらず、しかたなく、彼女の携帯から、着信を入れた。 もう7回目だ、自分の携帯の番号なんて記憶していなかった。かろうじて持っていた自分の名刺の自分の番号を繰り返した。まさか、こんな時に、無理やり作らされた名刺が役に立つとは。 諦めて、携帯を閉じると、サブ画面に自分の携帯番号が映し出された。 「もしもし」向こうでは、慌てる女性の声がした。場違いにも、可愛い声だと、江崎は思う。 「お電話ありがとうございました。今から、お会いできますか?」 丁寧な口調の彼女は今日中に会いたいと言った。江崎も同感だったので、今いる喫茶店を指定した。 彼女は「すぐ参ります」とだけ言って、電話を切った。 彼女を待つ少しの間、人物像に頭を回転させた。 ぶつかった時は一瞬で、細身のジーンズを履いていたことくらいしか覚えていない。 想像を巡らせていると、喫茶店のドアが開いた。 どこか見覚えのある雰囲気で、目が合うと小走りで近寄ってきた。 江崎は一瞬、胸がざわついた。 「間違っていたら申し訳ありません。江崎さんですか?」 それを聞いて、江崎が微笑むと、彼女はほっとしたように、息をついた。 肩が揺れていた。きっと、走ってきたのだろう。 ちょうど注文してあった、アイスコーヒーがきた。 「良かったら、飲んで行って下さい」 江崎は右手を向かいの席に向かって出し、座るように促した。 彼女は迷っているようだったが、すぐに腰を下ろした。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加