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「おかえりなさい、店長」
店に戻ると、お客様が少ない時間になっている。
微笑んだ美穂子はメイクが上手だ。若さがあふれる、かわいらしい雰囲気を心得ている、彼女の笑顔には柔らかさが満ちている。
「いい男でした?」
そんな彼女も年頃の女の子。
「くだらないこと聞かないの」
彼女の頭を軽く叩くと、甘い香水の匂いが漂った。さわやかなシトラス系だ。
デスクに戻ると、自分の携帯が妙に懐かしく感じられた。
発信履歴を見てみると、名刺の電話番号と同じ数字が並んでいる。名刺の名前どおり、登録している自分に少し笑ってしまう。
「江崎亮治…か」
独り言のようにつぶやくと、佑喜が午後の休憩から戻っていて、ロッカールームとは名ばかりの個室から顔を出した。
「江崎さんっていうんですか、その人」
「なんだ、居たなら言ってよ。」
佑喜はいたずらに笑った。
「今日はありがとう。途中で抜けちゃってごめんね。」
「大丈夫ですよ、でも、落とした携帯が入れ変わるなんて、なんか運命的ですね」
佑喜が店に戻ると、未来は書き上げなくてはいけない書類に取り掛かる。
このアクシデントのおかげで、随分と時間のロスをした。早めに仕上げなくてはならない。
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