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開店一時間前になると、その日の入荷分の荷物が届く。
店内に出ると、ビル内はまだ暖房が効いていない寒さが分かった。荷物を持ってきたのは、さっきエレベーターで居合わせた女性だった。伝票にサインをすると、やつれた笑顔で「ありがとうございます」とだけ言って、立ち去った。
三十歳過ぎくらいだろうか。
薬指には指輪が光っていた。
デスクに戻ると、冷めかかっていたコーヒーは冷たくなっている。それを飲み干している間、刹那今の女性のことを考えた。やつれた笑顔でも、光る指輪。
こんな風に働いていても、金以外何の見返りもない。未来の最近の趣味は買い物くらいだ。彼女は家に帰れば、夫がいて、かいがいしく世話をやいているのだろう。そんなささやかな幸せでさえ、とても羨ましく感じた。
ふと、思いを馳せていた未来は開店三十分前だということに気がついて、レジカウンターに向かった。
そろそろ、もう一人、出勤してくる頃だ。
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