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─春<4月31日>─
いつも通る坂道。
冬の残り雪が溶け始め、春の温かく涼しい風が、川沿いに並ぶ桜の花を踊りに誘うように、白とピンクの綺麗な花が舞い、道行く人を魅力する。
この坂道を登って行くと、その桜並木道を遥に超える美しさを、毎年4月から5月の1ヶ月間だけ現す大きな桜の木がある。
名を【桜叶】。
「いつの間にか春だったんだなぁ」
桜並木の坂道をゆっくりと登る。
目的は【桜叶】。この桜は雑誌の観光スポットにも記載される程で、いつも人がごった返していた。
しかし、今日に限って人はいない。真夜中だからだろうか。
そんな事を考えながら歩いていると、既に坂道を登りきっていた。目の前には公園がある。
「来るの遅くなってごめんな。今年は桜見れたか?また見れなかったとか言ったら蹴飛ばすぞ?」
空を見上げ、微笑みながら言葉を掛けた。
そしてまた歩きだし公園の奥へと向かう。
奥には大きな桜
「今日で今年も最後か…俺いつまで待てばいいんだよ……」
目尻が熱くなり、上を見上げる。
散りゆく桜を月明かりが照らし、桜の木の周りで光輝くように舞う花びら、散りゆく定めを知りつつも毎年のように美しい花を咲かせる。それは不思議な感覚。
目を瞑ればあの頃に戻れるような。
「さくら…」
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