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目の前にいるのは、麻衣の知っている海藤ではなかった。
このとき悟った。
話をしても無駄だということを―――。
海藤には、もう自分の言葉は届かないだろう。
自分の愚かさを、思い知り、茫然自失の状態になって床に横たわっていた。
海藤はそんな麻衣を見て、壁に寄り掛からせる格好で座らせた。
麻衣はされるがままに、側にいる海藤をぼんやりと見ていた。
が、突然、言い様のない違和感に襲われた。
海藤が、手に持っているもの―――。
注射器―――?
こんなものが、どうしてこんなところに……。
病院くらいでしか目にすることがないモノが、目の前にあった。
ぞくりと身体を寒気が襲う。
海藤の様子がおかしい。
口を歪ませ不気味に笑い、目の焦点が合っていない。
――――もしかして……。
―――――クスリ………。
「裏切り者には罰を与えないとな……。」
海藤は、にやりと笑った。
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