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俗世間の行いに反することなく生きてきた、プライドが残っている。誰にも失わせない、絶対なる誇りと言うやつだ」
――私は、その意気奮嘆に語っていた語り具合に、短調、そのちょうし曖昧なひとつのオルゴールを思わせた。ゆっくり、ゆっくりと鳴り、時々、音、折々軋みながら鳴ったりする、響かないオルゴール、それは、悠長であり、気掛かりになりそうな、そんな――
そういえば、さっきの小鳥達は、空に鳴いていたではないか。
「すまない、マスター、銭をここにおいておく」
気を立てたように、席立ち、まずいコーヒーとかさかさとしたパンを口にした代金をマーベックは、幾分、満足したように、払い終え、その店を後にした。
――だが、しかし、マーベックには、まだ先程の、言葉にすることの出来ない、生温い余韻とやらを、感じぜずにはいられなかった。――すると、重そうに背負い込んだ画材を、不思議に思った野良猫が、一匹、マーベックの傍に寄ってきた。そうして、いかんに思うことなく布製の小さな手鞄の中から、さっきの食べかけたパンを少し屑にして、興味深く眺める野良猫の口まわりへと、与えてやった。
野良猫は、不気味さをとどいながら、今日の日の夜と闇を誘いながら、目を光らせては、すぐに遠くへ去っていった――
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