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夏も終わろうとしているある日のこと。仕事から帰ると、滅多にかかってくる事の無い家の電話に留守番メッセージが入っていた。
『お父さんが、お父さんが……すぐ帰ってきて』
年老いた母の声、緊迫した様子が窺えるようなメッセージに、さっと血の気が引いていく。
ハッとして机引き出しの奥にしまい込んだ封筒を取り出した。消印とカレンダーを見比べる。
――きっかり、四ヶ月。
西日のせいで蒸し暑い室内に居るというのに、身体中の汗が一気に冷えた。急いで実家にかけ直すが、誰も電話を取る気配がない。
それから、どのようにして実家に帰ったのかは記憶に無い。ただ、家を出るまでは冷静だったようで、喪服や数珠、ネクタイまで一式、車に積んでいたのだった――
家に帰り着くと、真新しい仏壇の前で……母が放心しきった様子で座り込んでいるのが見えた。
「母さん、緊急時は携帯の方にかけてくれって言っただろ」
「葬儀屋さんが来てね、いろいろしていってくれたの。あんたが帰ってくるの、待ってたの。一緒に葬祭場に」
母は、返事はせずに一方的にそこまで言うと、わっと泣き崩れた。
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