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私は、もう何を言っているかもわからない母を黒い服に着替えさせ、自分も喪服に着替えた。
そして、母が泣いて言い張るので、父が遺していった車に乗り込み、重いハンドルをのろのろと操って――葬祭場へと向かった。
「誰か、連絡しとかないといけない人とかいないのか? 俺は後で会社に電話入れるけど、三日しか休めないからな?」
母は泣きじゃくりながら首を振る。この調子だと、何を言っても首を振りそうだ。こんな時、意外と冷静でいられる自分自身に、ほっと安堵する。
父の葬式は、近所の知り合いと職場の上司が二人駆けつけたくらい、十数人での寂しい式だった。
先祖墓も新しい墓も無いため、父の遺骨は急遽、永代供養の納骨堂に納めることになった。
一日で葬式から初七日まで済ませてしまうと、自分が休める残りの二日で、遺産の書類整理から遺物整理、香典返しの段取りまでさっさと片付けた。
翌日はもう仕事に戻らなくてはならないが、母を独りで実家に残しておくと後追い自殺もしかねないような雰囲気だ。
渋る母を「四十九日までの条件だから」とようよう説得し、何とかアパートに連れ戻ったのだった――
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