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その昔
東国の明という国に康典(こうてん)という若者がいた。
康典は漢貴族の生まれで
知勇兼備の男であったが
その才を善いことには使わず文字通り悪業の限りを尽くしていた
時は政治の乱れた傾国の世
正直者が馬鹿を見るその時世を嘲笑うかのように略奪、謀略、暗殺の毎日を生き急いだ
そんな日々の中で彼が射止めた一人の女性
その名を瞬麗といった
瞬麗はその名のとおり
ほんの一瞬目にしたたけでも男のまぶたに焼き尽くような輝きをもった女性であった
その美しさは容姿だけに限らず、子供には菓子を
老人には労を、城壁に群がる乞食でさえも食物を切り分ける菩薩のような心を併せもったものであった
そのような美しい瞬麗を康典が見逃すわけがない
力ずくでは不可能だと悟った康典は瞬麗の父の弱みに付け込み、瞬麗や瞬麗の父による施しによって蓄まった借金を肩代わりした
袖合う仲も多少の縁
それどころか袖の下をそのまま恩義に感じ入った無垢な瞬麗はためらいもせず悪来康典との婚姻を承諾したのである。
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