針と糸~その1

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康典は言葉に詰まった 思えば武人として殺し合いや騙し合いの中に生まれ 人を信じたことがない それは血をわけた親兄弟でさえも同様だったのである 「あなた、さあ 私はお裁縫をはじめようと思いますのでいつものように針に糸を通してくださいまし」 「おお、そうであった」 瞬麗は生まれつき手が震える神経症を病んでいたので針に糸を通すことができなかった 康典や他人にはたあいもないことであったが 自分には出来ないことをしてもらうことに瞬麗はことさらことさらに感謝した。
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