恋人

2/8
前へ
/25ページ
次へ
『いやかい?』 しばらく黙り込んだままの私に、隼人先生が不安げに聞いてきた。 私は、慌てて首を横に振ると先生は、嬉しいそうに微笑み私を車イスに座らせる。 『どこに行くの?』 『どこがいい?』 『じゃ水族館』 『わかった』 病院の近くに小さな水族館がある。 イルカやシャチみたいな大きなのはいないけど、私の一番好きな場所。 先生は、ゆっくり車イスを押し始める。 外は、日差しが強くなって夏だなと感じる。 病室では常に温度調節がされていて快適だから季節感がない。 病院の前の並木道を10分程行くと水族館にたどり着く。 2階建ての小さめの建物。 看板もなく見た目で水族館と判断するのは難しい。 私も、春に言われるまで知らなかった。 中に入ると、四方をガラス張りの大きな水槽になっていて、いろいろな魚達が自由に泳いでいた。 照明は、水槽の上だけにありまるで海底にいるような雰囲気だった。 『いいなぁ~あんなに自由に泳げて』 『海に行けば自由に泳げるよ』 『先生・・・』 『人魚姫だろ?』
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加