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「ごめん。
ホントにごめんね、ソラ……」
アズは、その可愛い顔の前で両手を合わせ、じっと僕を見つめている。
綺麗に切りそろえられた前髪の下の、大きな瞳が光ってる。
『ごめん』って2回も言ってるわりには、あまり申しわけなさそうじゃないのが気にかかる……。
アズは続けてこう言った。
「あたし、陸さんが好きなの」
「えっ!?」
一瞬、気が遠くなった。
ちょっと待って。
目の前にいる紺野梓紗は僕の彼女で。
陸──。
今井陸朗(りくろう)ってのは僕の兄貴で……。
高2になってすぐ、僕は同じクラスのアズに告白されたんだ。
生まれて初めてできた彼女だ。
3ヶ月──。
僕らはなんの問題もなく楽しくやってきたはずだった。
なのに。
(陸が好き? ごめん?
どういうこと?
何言ってんの!?)
頭のなかで灰色の渦がぐるぐるぐるぐる回ってる。
状況がまったくのみ込めない。
「陸さんを好きになっちゃったの。
だからもう、空とはつき合えない」
つやつやの唇からあまりにもさらりと吐き出された言葉は、僕をはげしく打ちのめした。
僕はゆっくりと頭をめぐらせ、隣の兄貴の横顔を見る。
口半開きの相当なアホ面で。
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