空とはつき合えない。

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────── 『話があるの』とアズに呼び出された。 あらたまって何だろうとは思ったけど、たいして気にもしなかった。 約束の夜8時にファミレスに行くと、アズはもう来ていた。 ノースリーブの白いワンピースが、清楚なアズに似合ってる──。 鈍感な僕は、そんなふうに見とれてた。 やたらでかいテーブルを挟んで僕らは向かい合う。 「話って?」 そう切り出したとき、陸が歩いてくるのが見えた。 それでもまだ、僕には呼び出された理由が分からなかった。   陸はにこりともせず、僕とちらりと目を合わせ隣に座った。 そして──。 僕ら兄弟を前にして、アズは『空とはもうつき合えない』と言ったんだ。 ────── 陸がタバコに火を点け、ゆっくりと煙を吐き出す。 会社帰りのサマースーツ姿のままだ。 僕より9つ上の超デキた兄貴。 その嫌みなくらい整った大人な横顔を、恨みがましい目でにらんだ。 陸はそんな僕を、幼児をなだめるみたいな眼で見返してきた。 そしてアズに向き直る。 「俺は紺野さんを好きにならないって言ったはずだよね?」 点けたばかりのタバコの火をもみ消しながら、単調な低い声が言った。      ・
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