桜と君と願いと僕と

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「美摘は本当、料理だけは抜群に上手いですよね」 「……だけはって何だ。だけはって」 吉田に誉められても何故か誉められた気がしないのはきっと彼はいつも余計な一言を挟むからだろう。 ムスッと頬を膨らませる彼女に吉田は冗談ですよ、と言って宥めた。 そして、微笑を浮かべてこんがりとキツネ色に焼けた玉子焼きに箸を伸ばす。 そんなほのぼのとした空気が二人を包んでいた時だった。 「っちっくしょ! なぁんで捕まらねぇんだよ!」 浅葱に身を纏った大柄の新選組隊士が酔っ払いながら美摘と吉田の向かいの桜の木の下でそんな愚痴をこぼしていた。 大柄の隊士に同調するように小柄の男が続ける。 「ここのところ不審火が相次いでるよな。幸い火付けられたのが空き家ばかりだから良かったものの……」 「捕まえたら斬首だ! 斬首! 関わった奴ら全員血祭りにあげてやる!!」 そんな物騒なことを大柄の酔っ払った隊士は叫ぶ。目は血に飢えた獣。    ・・・・ まさに壬生の狼――新選組を未だに蔑む呼び名で呼ぶ者がいる原因が垣間見えた気がした。 花見を楽しんでいた者達も新選組隊士達の会話に不愉快そうに眉を寄せている。 中には不審火より壬生狼のが物騒やわ、などと言う声も聞こえる。 花見に来ていた者達は一斉に心証を悪くしたが中でも約一名の表情は特に険しくなっていた。 「放火かな?そう言えば最近不審火が多発していると町の人が噂してたし……」 美摘は吉田の方を向いて驚く。 「稔麿……?」 「帰りますよ、美摘」 「……は?」 「いいから帰りましょう」 吉田は機敏に立ち上がると美摘の手を引き、有無を言わせず、その場から離れたのだった。
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