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「痛っ……。ちょっ、稔麿、そんなに引っ張らないでよ! どうしたの?」
「…………」
美摘に止められてか、それとも辺りに人気のない閑散とした河原に着いたからか、美摘はようやく足を止めた。
無言で美摘の方を振り返る。
いつになく、殺気立っており、眉のつり上がった彼に幼なじみの美摘でさえも恐怖を覚えた。
普段散々嫌みは吐くが、心根は優しい吉田がここまで怒っているのを見るのは付き合いの長い美摘でも初めてだった。
「稔麿……。私……なんか気に障ることした?」
美摘は彼から放たれる殺気に怯みながらも問う。
が、吉田は小さく首を振ると視線を二人の間に流れる雰囲気とは対照的なキラキラと煌めく川に移した。
「君は何もしてませんよ。君は」
「じゃあどうして? 稔麿」
不安の拭えない彼女はおどおどとしながらも訊く。
自分ではない誰かが彼を怒らしたのだという意を汲み取った美摘は“じゃあ何に怒ったの?”という意でそう問うたのだ。
次に吉田の口から出た言葉は答えではなかったが、彼女に予想だにしない衝撃を与えるものだった。
「美摘、もう稔麿と呼ぶのは止めてください。あとその馴れ馴れしい口の利き方も」
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