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「…………え?」
数十秒かけて言ったのがその一言だった。
美摘はわけがわからないと訝しげに眉を顰める。
「これからは吉田先生と呼ぶようにしてください。あと、敬語を使うように」
「ちょっと待ってよ! いきなりそんなことを言われても理解できない……」
反抗する美摘に吉田は川から視線を外し、彼女に冷たい一瞥をくれる。
「別に君が理解する必要なんてどこにもありませんよ?」
「……っ!」
闇を含んだ色のない目をさらにスッと細める吉田に美摘は胸が酷く痛む。
「じゃあ……私がやっぱり何かしたんだよね!? じゃあハッキリ言ってよ……! そんな……突然すぎる……」
美摘は先程まで我慢していた涙がついに溢れ出した。
着物の裾で拭いながらも必死に言葉を繋ぐ美摘に吉田は背を向けた。
「君は何もしてませんよ? ただ私が君の存在を鬱陶しく感じるようになっただけですから君は何も悪くありません」
「……っ!」
納得など到底できるはずのない散々な言いよう。
だが、そこまで言われようとまだ吉田の隣にいることを欲してしまう自分に美摘は嫌気がさした。
・・・・
「ならっ……! 私は吉田先生の小姓で構いません! 私を傍に置いてくださいっ……!」
「……好きになさい」
「……失礼します」
美摘は心臓を刺すような吉田の言葉に耐えきれず、腰を折り一礼すると走り去った。
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