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「美摘、わかるね。稔麿は斬首も晒し首も覚悟の上で行動してる。あいつは賢い。全て理解した上で時代に命を賭けた」
「…………」
「そんな危険な賭けに君を巻き込むわけにはいかないと思っているんだよ」
吉田が美摘に稔麿と呼ぶなと言ったのも敬語を使うなと命じたのも全ては自分と幼なじみであることを敵に勘ぐられないためだ、とも桂は説明した。
桂は困惑する美摘をもろともせず、話をしていたが彼女は何の前触れもなく、顔を上げる。
「私はっ……! 私は稔麿と一緒にいれるならどんな死に方であっても喜んで受け入れるのに……。彼のいない世界に独り残される方がよっぽど嫌です!」
はぁはぁ、と桂を吉田に見立てて啖呵を切った美摘。
桂は一瞬、目をまん丸にした後、すっと細めた。
「美摘はそんなに稔麿が好きなんだね」
「当たり前です。と言っても最近気付いたんですけど」
桂の確信めいた発言にも照れることなく、美摘は返した。
そして、美摘はぺこりと頭を下げる。
「……どうした?」
「教えてくれてありがとうございました」
「……あぁ」
曖昧に返事をしながらも美摘の声に元気が戻っていることに安堵する桂。
美摘は桂に背を向け、一言だけ言った。
・・・・
「しばらくは吉田先生で通させてもらいます。私を思って告げた吉田先生の命を無下にはできませんから」
明るい声を桂に残して美摘は幾分軽くなった足取りでその場を去ったのだった。
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