例えばそれが我が侭でも

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俺はゆっくりと距離を縮めるように近づく。 「晴希君……」 俺の声に気づいた二人は、ゆっくりとこちらに振り向いた。 優しくて、素敵で、温かい咲の両親。 おじさんが掠れた声で俺の名前を呼んだから、その時……心拍数が一瞬、ずれた気がした。 「晴希君……部屋、入ってやってくれる?」 おばさんの目はウサギのように白い部分が真っ赤になって充血していて、おじさんの肩も小刻みに震えて見えた。 「咲が……晴希君に、会いたいと……」 外とは違ってクーラーがガンガンに効いているはずなのに、俺の汗はまだ引いていない。 人間が生まれた時から備わっているはずの、その機能が、一瞬にしてヤラれたらしい。
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