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☆
お風呂上がりで、冬ならば湯気が出るほどにほこほこに暖まっていた。
けれどソファーに座った七海は思い切り頬を膨らませていた。
理由は簡単。
視線の先で零也を散葉が独り占めしていたからだ。
「えへへ~! 零也くんおっきぃー!」
零也の膝に座って両手に抱かれている形で散葉は幸せそうに笑っていた。
いつもならばお風呂上がりは零也に抱っこされながら髪を乾かされているはずだ。けれど散葉は七海が帰ってからほぼずっとあの位置にいる。
イライラは頂点に達していた。
「パパー…七海もー…!」
「待って七海! もうちょっとだけ!」
「う~…!」
ずっとこんな調子で散葉は離れようとしない。
旅行の準備は洋服をつめるだけになってしまったし、やることもない。我慢の限界に達した七海は零也の腕に抱きついた。
「七海の番ー…!」
「あら、私に喧嘩を売るなんて…。初めての親子喧嘩がまさか零也くんをめぐる戦いとはね。行くわよ七海っ!」
「勝負ー…!」
「ちょっ!? なに下らないことで喧嘩して…」
「ほーら七海! こちょこちょこちょ!」
「あは…! ママ…反則…っ!」
しかしまぁ、さすがに氷や炎が飛び交うはずもなく散葉にやりこめられて七海は沈黙した。
「さて、七海が怒ってるから私はデザート作ってこようかな」
「じゃあ抱っこー…!」
「うん。ほらおいで。乾かしてあげるね」
ようやくやってきたチャンスに喜び勇んで七海は零也に抱きついた。
「ふふっ、そんなに抱きついたら乾かせないよ」
ここで七海はちょっと悪戯をしてみることにした。
髪を赤く染め上げて少し余裕のある笑みで一言。
「零也くん…ドキドキするー…?」
顔立ちは完璧に散葉似なわけで、口調以外は今の散葉そのもの。一瞬、不覚にもドキッとしてしまった。
「こ、こら! 散葉さんの真似しちゃだめでしょ!」
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