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「ママー…七海のママでありがとうー…」
「ここでそれを感謝されるのはとっても微妙よ七海」
あそこまでのリアクションをするプリン。零也の手は我知らずスプーンを動かしていた。
つ…と垂れる黒蜜はさながらブラックダイヤモンド。
共にながれるきな粉は金粉のよう。耐えられず、零也はプリンを口に含んだ。
途端に舌を襲う中毒性すらともなった甘味。
「うわ…すごい美味しいです!」
「二人とも喜んでくれたみたいでよかったよ。また作ってあげるね」
上機嫌な散葉はそう言いながら、自分もプリンを美味しそうに食べるのだった。
☆
わざと…なんだろうなぁ。
僕はちらりと横目で散葉さんを見ながら心の中でため息をついた。
「?…零也くんどうかした?」
「なんでもないです…」
笑顔がわざとらしい。からかっているのがまるわかりだ。
散葉さんは今、足を組んでいた。でもただ組んでいるだけじゃない。普通、足を組むとき散葉さんは膝と膝が重なるように組む。けれど今は違う。太もも同士が重なり、下にある左足が圧迫されて悩ましげにたわんでいる。体は子供、中身は散葉さんだ。
「そう? なんだか視線を感じたんだけどなぁ。このへんに」
指差したのはもちろん、太もも。気づいてるくせに。
「そ、それより散葉さん。明日買う物は決めました?」
「……一応確認しとく?」
不自然なくらいあっさりとそう言って、散葉さんは紙とペンを自分の手に空間転移させた。
「そうですね。買い忘れとかあると困りますし」
ほっと一息着いたのもつかの間。散葉さんは当然のように僕の膝に腰を降ろした。何故か向き合う形で。
「あの…これじゃあ書けないんじゃ?」
「私が言うから零也くん書いてくれる?」
「わかりました」
筆記用具を受け取り、散葉さんを膝に乗せたまま僕は散葉さんの指示を待った。
「タオル」
「うひゃあ!? 耳に息をかけないでください!」
「近場にあるからラピスラズリ工房でケーキも」
「ち、散葉さんってば!」
しかもいちいち色っぽく言ってくるからたちが悪い。これを狙ってたのか。
「あとは…」
「あとで覚えといてくださいね」
なんだかうまく誘導されている気もするけど今はこっちが先だ。
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