1.異界への旅路

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「ママー…七海のママでありがとうー…」 「ここでそれを感謝されるのはとっても微妙よ七海」  あそこまでのリアクションをするプリン。零也の手は我知らずスプーンを動かしていた。  つ…と垂れる黒蜜はさながらブラックダイヤモンド。  共にながれるきな粉は金粉のよう。耐えられず、零也はプリンを口に含んだ。  途端に舌を襲う中毒性すらともなった甘味。 「うわ…すごい美味しいです!」 「二人とも喜んでくれたみたいでよかったよ。また作ってあげるね」  上機嫌な散葉はそう言いながら、自分もプリンを美味しそうに食べるのだった。        ☆  わざと…なんだろうなぁ。  僕はちらりと横目で散葉さんを見ながら心の中でため息をついた。 「?…零也くんどうかした?」 「なんでもないです…」  笑顔がわざとらしい。からかっているのがまるわかりだ。  散葉さんは今、足を組んでいた。でもただ組んでいるだけじゃない。普通、足を組むとき散葉さんは膝と膝が重なるように組む。けれど今は違う。太もも同士が重なり、下にある左足が圧迫されて悩ましげにたわんでいる。体は子供、中身は散葉さんだ。 「そう? なんだか視線を感じたんだけどなぁ。このへんに」  指差したのはもちろん、太もも。気づいてるくせに。 「そ、それより散葉さん。明日買う物は決めました?」 「……一応確認しとく?」  不自然なくらいあっさりとそう言って、散葉さんは紙とペンを自分の手に空間転移させた。 「そうですね。買い忘れとかあると困りますし」  ほっと一息着いたのもつかの間。散葉さんは当然のように僕の膝に腰を降ろした。何故か向き合う形で。 「あの…これじゃあ書けないんじゃ?」 「私が言うから零也くん書いてくれる?」 「わかりました」  筆記用具を受け取り、散葉さんを膝に乗せたまま僕は散葉さんの指示を待った。 「タオル」 「うひゃあ!? 耳に息をかけないでください!」 「近場にあるからラピスラズリ工房でケーキも」 「ち、散葉さんってば!」  しかもいちいち色っぽく言ってくるからたちが悪い。これを狙ってたのか。 「あとは…」 「あとで覚えといてくださいね」  なんだかうまく誘導されている気もするけど今はこっちが先だ。
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