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一瞬で散葉さんの機嫌が悪くなる。
それをわかっていたらしく咲夜さんは割と遠くにいた。始めから正座して身構えている。
「待っ、待ってください! 散葉さんには今日一日の帝王権を差し上げますから!」
「帝王権?」
「どんな横暴も学園内であれば通すことができる権利です」
「なっ…!」
声をあげたのは散葉さんではなく僕だ。だって黙ってはいられない。散葉さんに横暴を許したりしたらせっかくの静かな夜が夏の夢と消えてしまう。
「零也くんは今から私のことを『おまえ』と呼ぶ!」
「……はい?」
「夫婦っぽいでしょ? さっき思いついたんだけど零也くん呼んでくれなさそうだから考えてたんだけどラッキーだったよ」
「いや、でもですね。一応散葉さんは三年生ですし…」
「咲夜。帝王権について説明なさい」
「どんな横暴も学園内であれば通すことができる権利です」
律儀に言われた通り散葉さんは繰り返した。くっ…なにが何でもやらせるつもりか。
なんでいきなりそんな権利を散葉さんに与えたかとか、こんな時間に何故やってきたかとかいろいろ無視できない問題もあるのだけどとりあえず今は従うほかない。
「お…おまえ…?」
多分結婚しても呼ばないであろう呼び名に少し緊張しながらも僕ははっきりと呼んだ。
「やーん! あなた~!」
「わっ! 急に抱きついたら危ないですよ。…それで咲夜さんはいったいなにをしにいらっしゃったんです?」
「えっと…少々ついてきてもらいます」
「あら、強制なわけ?」
「…すいません」
散葉さんの質問にも謝るだけだ。なんだろう。咲夜さんが負い目を感じることなのだろうか。
「…七海は起こした方がいいのかしら?」
「い、いえ。私の式神をつけます。寝かしてあげましょう。悪いんですが校長室へ転移させてもらえますか?」
「めんどくさいわねぇ」
本当に嫌々ながら散葉さんは指を鳴らした。もう日常の一部になりつつある光が僕たちを包み───。
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