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☆
「ひぐっ…零也くんに嫌われちゃうよぅ…」
「嫌いませんから! どんな姿でも散葉さんは散葉さんですよ!」
校長室の隅っこ。日も当たらぬそんな場所で僕は散葉さんを慰めていた。椅子に座っているいつもの面々も頭を抱えている。
そう、全てはいつもと違う意味で厄介なことが起きてしまったのが原因だ。
「本当にすまない…もっと早く注意していれば…」
「いえ…それに話を聞く限り、本当に悪いのは散葉さんの方ですし…」
びくんと散葉さんの肩が揺れた。
「いくらイライラしてても人の物を盗ったらだめですよ。ある意味バチが当たったんです」
「うぅぅ…。私、神様なのに…」
落ち込んでしまったけれど少しくらいは反省してもらわなきゃいけない。それに今はあまり構ってばかりもいられない。
「で、命先輩?」
「あ、あぁ。やはり解薬は龍の国にしかないみたいだ。薬師婆様にも確認をとってきた」
このミニマム散葉さんを治すには龍の国に生える植物からしか作れない薬を飲むしかないらしい。本来、神とは全てが完全なものだから、状態が変化したりはしない。
例えば散葉さんは髪を切っても次の日にはもとの長さになってしまう。だから、これは神のシステムにすら介入する劇薬なのだ。ほおっておいても治りはしない。
「私が大至急とりに帰るから……」
「龍の国は危険なんですか?」
「危険? いやそんなことはないぞ。鬼の里よりも安全だ。まず外界から入るのがあそこよりも困難だからな」
「僕たちも行けませんか?」
「行けないことはないが…」
心の中で僕はガッツポーズをした。見つけたからだ。
夏休みの暇つぶしを。
「零也くん?」
「ええ」
僕の考えが伝わったらしく、散葉さんもさっきとは違って笑顔を見せてくれている。
「行きましょう! 龍の国へ!」
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