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「けんど、人に踏まれると痛いきに。あん所に寝かしてやるぜよ」
坂本はそう言って、顎で少し段差のある、隅を差した。
「痛いどうこう以前に、踏みゃせんと思うぜよ…」
小さくそう言いながらも、両腕を持つ坂本にならい、両足を掴む慎太郎。
「この子が着ちょるのは…一体、なんぜよ、坂本さん」
女の子を、移動させ、そっと地面に寝かせた後、ずっと気になっていた問いを、慎太郎が切り出す。
「ん…?あー、…分からん」
坂本はそう言って首を振り、その質問から逃げ出した。
慎太郎に話しちょったら、
ややこしいことになりかねん。
そう思ってのことだ。
そして坂本は、懐から、何やら四角い、折り畳み式の手鏡のようなものを取り出し、女の子の懐に潜り込ませた。
もう一度その少女を見て、頬に触れたが、やはり反応はするが目は開けなかった。
「……さて、行くぜよ!」
坂本はそう言って立ち上がると
パンパン、と着物を叩く仕草をする。
「何処に?」
「知らん」
キッパリと、あまりに端的で簡潔な言葉で返されて、一瞬固まる慎太郎。
「流れるままに、行き着くのみじゃ」
わははは、と、豪勢な笑い声を響かせ、大手を振りながら、坂本は去ってゆく。
慎太郎は、取り残された女の子を気にしながらも、尚も遠くへ行ってしまう坂本の背中を追った。
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