とある物語

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そして坂本と同じ一本道を進み、寺の境内に入った時、藤堂は沖田ではない人を見つけた。 おそらく寺の境内の中央で、口をあんぐりと大きく開けて、空を見ている女の子。 しかし、女の子と呼ぶほど小さくはない。 かと言って、女性と言うにはどこか幼さが残る。 とにかくそんな、中途半端な位置に居る女の子が、半信半疑と言う顔で立っていた。 「あの、どうかしました?」 浴衣の袖の中で腕を組みながら、その子に近付く藤堂。 女の子はゆっくりと視線を空から、目の前の藤堂に移し、今度は顰めっ面を見せた。 「………あの…ここ、どこですか?夢の中…?」 言葉の真意は測りかねたが、どうやら本気で尋ねているようだと藤堂は思い、 「えい」 ギュッと、女の子の右頬をつねった。 「い……ったたたた!」 あまりに突飛な行動に、反応が遅れながら、そう言う女の子。 「どうやら夢じゃないみたいです」 「人の頬つねる?普通!」 「これが俺の普通ですからねー」 ニッコリと笑う藤堂に対して、呆れて物も言えない様子の女の子。 それを見て、今度は藤堂が尋ねる。 「えっと……色々聞きたいんですが…。とりあえず、名前を聞いてもいいですか?」 「……綾女(アヤメ)」 「あやめ?漢字は…」 「あれ、平助?」 突如現れた新たな声に、 二人の視線は、藤堂の後ろから現れた人物に移る。 薄い茶色の髪が、陽の光を受けて、透き通って見える。 「沖田さん、探してましたよー」 「ああ、知ってるよ」 「誰かに聞いて、迎えに来てくれたんですか?」 「そんな訳ないじゃないか」 爽やかなのに、人の心の傷を抉るような笑顔を向ける沖田━━沖田総司。 ですよね、と引きつり笑いを浮かべる藤堂の後ろで、固まっていた女の子、綾女が、ハッと我に返る。 「あの……!」 綾女の声に沖田と藤堂が振り返る。 「本当…ここ、何処?」 「ここは壬生寺跡だよ」 沖田が簡潔に答える。 知らないの?と言いたげに。 綾女はそれを聞いて、余計にパニックに陥った。 それもそのはず。 綾女は今さっき━━気絶して目が冷めるまで、自分の学校に居たのだから。 .
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