始まり始まり

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振りほどこうかと考えた俺の胸元で、 「……ならないで……」 小さな声が聞こえた。 「……え?」 「キライに……ならないでください」 胸元から俺のほうに顔を向ける時に、前髪が左右に分かれたらしい。これが2回目だ。彼女の顔をはっきりと見るのは。 目にいっぱいの涙を浮かべながら、ねくらん……いや、天崎菫は懇願してきた。 「私を……独りにしないで…」 それは、あまりにも強い"すがりつき"の声。 その声と、目の前の表情を見て、 俺はねくらんを抱きしめた。 分からない。ただなんだかそうしなくちゃいけないと思ったからだ。 華奢な体が、すっぽりと俺の体に包まれる。 初めて抱きしめた女の子の体は柔らかくて、いい香りがして、こんな時じゃなければもう少し喜べる思い出として残ったことだろう。 「大丈夫。俺は一緒にいるから」 思いつく限りの優しい言葉を口にする。 「ぐすっ、き、嫌いにならない?」 「ああ、ならない」 「ふぇ……ふええええええええん!!」 「のわあっ!?」 今度はマジ泣きを始められてしまった。
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