1857人が本棚に入れています
本棚に追加
暫くして、未緒は一人屋敷内を歩き廻っていた。
家族紹介が終わった後、長男の優一は学校関係の仕事があると自室へと戻り、次男の颯次は執事の要と共にキッチンの方へと姿を消し、末っ子の瞬は学校の課題をやりに屋敷の外に出ていた。
三男の遥斗は、というと、その後再び姿を見せることはなく、何処で何をしてるのかさえ誰も知らなかった。
東宮寺家の主である健吾も出張ということで、あの後すぐに自家用ジェットで海外へと飛んでいった。
一人暇を持て余していた未緒は、特にすることもないため仕方なく新しく生活することになった屋敷の中を見て廻る事にした。
何処までも続いていそうな長くて広い廊下を黙々と歩いていた未緒はふと、とある扉に目が止まった。
応接室よりも少し小さな扉ではあるが扉の表面には見事なまでの彫刻が施されており、造り自体も例え大きな地震が起きたとしてもそう簡単には崩れないような、とてもしっかりとした造りをしていた。
未緒は中の様子が気になったが開けていいものかと迷っていると、近くを通りかかったメイドが声をかけてきた。
「お嬢様、如何なさいましたか?」
「え…」
突然声をかけられた未緒は不意打ちにもいいところ、何て返事をすればいいのか迷ってしまった。
するとメイドはにっこり微笑み急かすことなく未緒の言葉を待っていた。
その様子に未緒は仕方なくゆっくりと慣れない口を開かせた。
「この、部屋は、何の…?」
片言に近い未緒の喋り方は決して聞き取りやすいものだとは言えなかったが、メイドはそれを聞き返すことはなく一発で聞き取った。
「ここは知識の間といって、書斎でございます」
「知識の、間。あ、ありがとうございます」
未緒はたどたどしいお礼を言いながら頭を下げると、メイドは再び笑みを浮かべ一礼してから自分の持ち場へと戻っていった。
メイドを見送った後、未緒は再び目の前に立つ扉と向かい合い、意を決めてゆっくりとその扉を開けた。
最初のコメントを投稿しよう!