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思っていたよりも軽く開けられた扉に関心を抱きながら部屋の中に入ると未緒は扉の向こう側に広がる光景に思わず一瞬目を疑ってしまった。
「なに、これ…」
無意識に言葉を洩らしてしまうほどの視線の先にあるものは、部屋全体を囲うようにして設置された本棚の数々。
そして見上げていると首が痛くなってしまいそうなくらいに高い天井に対し、それを苦ともしないかのように天井と床を繋ぐ沢山の棚の中にはジャンル別に分けられた書物が隙間なく仕舞われていた。
その光景はもはや書斎というレベルではなく、書斎という名の図書館だった。
未緒は見たこともない光景に目を奪われつつも、自分を見下ろすかのように仕舞われている本達の中へと入っていく。
届く範囲に置かれた本を数冊手にとってはページを捲って中身を見るが、どれも読んだことのない話や内容が書かれているものばかりだった。
いや、正確に言えば未緒にとって、本自体こんなにあるものだとは知りもしなかった。
『本は必要な知識を与えてくれるが、それと同時に余計な知識までも脳内に植え付けてくる頼りないものに過ぎない』
実の父,理一はいつもそう言って未緒には、必要以上の本を与えようとはしなかった。
未緒は暫く室内を見渡し、その本の多さに感動を抱いていた。
すると未緒はふと窓際に置かれた本棚の中から背表紙に何も書かれていない一冊の本に目が止まった。
手に取り本の表紙を見てみると、そこには『日記』という文字が小さく書かれていた。
未緒は軽く抵抗を感じつつ辺りを見渡すと、そっとページを捲ってみる。
が、中には何の文字も書かれておらず、ただ真っ白なページが広がっているだけだった。
未緒は首を傾げ、もう一度ページを捲ろうとすると、窓の外から何やら鳥達の騒ぐ声が聞こえてきた。
その声は一羽ではなく、どうやら数羽の鳥達が別の鳥を苛めているように聞き取れた。
未緒は手に持っていた本を一度元の場所に戻し、鳴き声の聞こえる外へと向かった。
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