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よく晴れた春空の下、あの子はいつものように暗く何もない部屋の隅で一人、膝を抱えて座っていた。
ここ数日あの子は…いや、未緒(みお)は父親からの命を受ける日を待つ日々を送っていた。
未緒の家は、この世界に知らない人はいないと言い切れてしまうほどの財閥家であり、未緒はその家の一人娘である。
だが、そんな金持ちの令嬢にも関わらず、未緒は家の敷地から少し離れた場所に建てられた小さな塔の中でひっそり暮らしている。
…いや、生きている、そう言った方が正しいかもしれない。
綺麗なドレスや高価な宝石で身を飾ることはなく、所々切り口が目立つヨレヨレのシャツに薄汚れたズボンを履いて、とても財閥家の令嬢とは思えない姿をしていた。
なぜ、こんな生活を送っているかというと、それは未緒自身何も知らない。
いや、興味さえなかった。
この時の未緒にとって父親の言葉以外、何一つ無意味なものに過ぎなかったからだ。
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