1857人が本棚に入れています
本棚に追加
そんなある日のことだ。
最後に実の父、理一(りいち)の命を受けてから数週間が過ぎた昼下がり。
塔の中でこの日も理一の命を待っていた未緒のもとに、ある一家が訪れてきた。
理一の話によると彼らは、我が西園寺家と並ぶ財閥グループの東宮寺家であり、数年前に妻を病気で亡くしたらしい。
西園寺家と東宮寺家は昔から仲が悪かったらしく、何かと意見がぶつかり合い、顔を合わせるたびに毎回のように揉めているということだった。
所謂、犬猿の仲というものだろう。
どうやら今回も意見が噛み合わないのか部屋の扉の窓からは、彼らが未緒を見ながら揉めている様子が窺える。
未緒はその姿をじっと垂れ下がる前髪の隙間から膝を抱えて見つめていた。
暫くすると話に決着がついたのか、部屋の扉が大きく開かれた。
扉の傍には黒髪の長い前髪を鬱陶しそうに右側に流す理一と、理一と話していた東宮寺家の主、そしてその執事が立っていた。
理一は未緒を部屋から出るように促し、未緒はそれに従って部屋の外に出る。
部屋を出た時、ふと理一よりも少し背が小さく茶色の髪色をした東宮寺家の主と目が合う。
彼は未緒に優しげな笑みを浮かべてみせ、理一に冷たく言い放つ。
最初のコメントを投稿しよう!