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「それじゃ、この子は我が東宮寺家が引き取るぞ、理一」
「ああ」
理一の黒い瞳は未緒を見ることなく頷き、未緒達に背を向けるとそのまま外に通じる通路へと歩き出す。
「父上…」
何にも知らない未緒は徐々に遠ざかっていく理一の背中に声をかける。
それに反応してか、理一は一旦歩みを止めると振り向くことなく口を開いた。
「お前はもう用済みだ、そいつらと一緒に出ていけ」
理一はそう一言残すと再び歩き出し、いずれその姿は見えなくなった。
「…父上の命であれば」
未緒は聞こえるはずもない理一の後ろ姿に無表情のまま頭を下げた。
「ったく、相変わらず好かない奴だ…それじゃあ未緒くん、行こうか。要(かなめ)くん、車を頼む」
「はい、旦那様」
要と呼ばれる癖のある深い青色の髪と瞳を持った執事は車の準備をしに、未緒たちより先に外へと出ていった。
「さて、急な話ではあるが今日から君は東宮寺家の子だ、よろしく頼むよ!」
無表情の未緒とは正反対に笑顔をみせる東宮寺の主は未緒の背中に手をかざし、そのまま久々の太陽の下に未緒を連れ出した。
春はまだ始まったばかり。
桜の花びらが枝の先で満開に咲き誇っている中、未緒は新しい生活が待ち受けている東宮寺家へと向かった。
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