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するとそこには、ぶつかった衝撃で床に尻餅をついた遥斗の姿があった。
「は、遥斗ッ!?」
「いっ……てえ」
床に座り込むように倒れた遥斗は腰をぶつけたのか、しかめっ面で腰骨辺りを押さえていた。
未緒は慌てて左目を隠すように、遥斗から目を背ける。
「ったく、なんだよッ…ってなんだ、未緒じゃねえか。突然なんかとぶつかったから何かと思ったぜ」
遥斗は腰を軽く押さえながら倒れた体を立ち上がらせ、服についた埃を払うかのようにパンパン、と叩いた。
「悪かったな、大丈夫だったか?」
「あ…う、うん、大丈夫っ」
未緒はなるべく遥斗と離れるべきだと考え、少しずつじりじりと距離を取っていく。
だが、その行動がより遥斗の意識を引いてしまった。
「…? どうした、未緒? …ッもしかして、どっかぶつけたんじゃ!?」
「だ、大丈夫ッ! 何ともないから!」
未緒は距離を詰めてこようとする遥斗を遠ざけるようにして大股で後退する。
だが遥斗もなかなか引き下がろうとはせず、仕舞いには未緒の左手を取ってきた。
「何でもねえなら、何で左目押さえてるんだよ!? ぶつけたのか!? おい、見せてみろ!」
「お、おいッ…や、やめろッ」
必死に掴まれた手を外そうと抵抗する未緒だったが、同年代とはいえ遥斗も男性。
女の身である未緒の力では及ばなかった。
遥斗は未緒の一瞬の隙をついて左目を押さえていた手を剥ぎ取った。
「あっ…」
その途端、未緒を押さえつけていた遥斗の動きが止まった。
外気にさらされた片方だけの赤い瞳。
瞳は廊下に設置された電気の光に照らされ、その色はまるで、たった今流された血のように鮮やかなものに染まっていた。
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