◇第三章◇

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「お、お前ッ…」 「もう、いいだろっ…手を離せ」  未緒は遥斗に掴まれた腕を無理やり引き離すと、その手で再び左目を押さえる。 「お前、その目…ー」 「言うなッ!!」  未緒は思わず声を荒げる。 それは酷く苦しげで悲しいものがあり、二人の間に暫しの沈黙が流れた。  だが、その沈黙も未緒の言葉により終止符が打たれる。 「ごめん…」  未緒はそれ以上のことは言おうとせず、そのまま自室に向けて歩き出す。 「…未緒」 「……」  背を向ける未緒に小さく声をかける遥斗の声に、未緒は数歩歩いた所で歩みを止め、横目で遥斗の方に振り返る。 「…ごめん、怒鳴ったりして。でも、これ以上何も、言うな…」  そう一言言い残すと、未緒は再び口を閉ざし、後ろから伝わる遥斗の視線をひしひしと受けながらその場を後にした。  その後、部屋に戻った未緒は真っ先にベッドに体を預け枕に顔を伏した。 ふと気を抜くと、左目を見られた時の遥斗の顔が頭の中で思い起こされる。 驚いたような、それでいて複雑そうな表情を浮かべる遥斗。 その顔は目を閉じても、開けていても脳裏に焼き付いて放れようとはしなかった。 「くそっ…」  未緒は引きちぎる勢いでシーツを強く掴み、何とかして苛立つ気持ちを落ち着かせようと試みる。  未緒の中で、何かが蠢きだそうとする。 ――そう、思い返せばこの目が全ての原因だったのかもしれない…。
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