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今にも溢れ出してきてしまいそうになる感情を必死に抑えていると、不意に扉が叩かれる音が部屋に響いた。
未緒はゆっくりとベッドから立ち上がり、出来るだけ落ち着いた声で扉の向こうの相手に返事を返した。
「…はい」
「俺…遥斗」
「……」
扉の向こうからは、力なく喋る遥斗の声が返ってきた。
「…何の用?」
「その、ちょっと、いいか?」
「……」
いつもとは違い控え目に話す遥斗に未緒は暫く考えた後、静かに扉を開けた。
扉の前にはどこか思い詰めたような表情を浮かべて立つ遥斗がいた。
「悪い、急に来て…でも、お前とちょっと話したくて…」
「…とにかく、入れ」
未緒は扉を大きく開かせ、遥斗に中に入るように促した。
遥斗を部屋に入れてから暫く、室内には先程の廊下での沈黙よりも更に重い沈黙が流れていた。
話があると言っていた遥斗自身もその重さに押されているのか、未緒に勧められた椅子に座ったきり一向に口を開こうとしない。
そんな中、ベッドに腰を下ろしていた未緒は仕方なしか一つ小さく息をつくと口を閉ざしたまま話さない遥斗に声をかけた。
「それで、話って?」
「えっ、あ…いや、その…」
「……」
再び沈黙が始まりそうな予感を感じた未緒は思わず溜め息をこぼしそうになる。
だがその瞬間、椅子に座っていた遥斗は急に体を立たせ、未緒の前で頭を下げ始めた。
「ごめんっ、俺ちゃんと前見ないで走ってて…それで未緒とぶつかって…」
「……」
「それにぶつかった挙げ句、その…左目を…」
遥斗は徐々に詰まらせていく言葉を必死に声にしながら次の言葉を探す。
「と、とにかく、本当にごめんっ…!!」
「……」
結局その言葉しか出なかった遥斗に対し、未緒は暫く口を閉ざしていたが、ふと小さなため息をこぼすと、静かに口を開いた。
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