◇第四章◇

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 翌朝、未緒は目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。 昨夜遅くに眠りに就いたのにも関わらず、未緒の目覚めは鮮明で、気分も思いのほか落ち着いていた。  ベッドから体を起こし、未緒はカーテンの隙間から今か今かと顔を覗かせている朝日を一気に室内に飛び込ませる。 途端に明るくなる部屋全体に一日の始まりが告げられる。  明るい朝日を体全身に浴びた未緒はそのまま早めに身支度を済ませ、気分のままに部屋を出てみた。  誰もいない廊下を黙々と一人歩く未緒。 だが、その足取りは決して重いものではない。  既に開け放たられ廊下の窓からは春独特の柔らかな陽の光が差し込み、太陽が昇るにつれてその暖かさも広がっていく。  そんな穏やかな一日の始まりを肌で感じていると、ふと外から鳥の鳴き声が聞こえてきた。 その声は慌ただしく、決してただ事ではないことを知らせていた。  未緒はその鳴き声を頼りに、誰もいない廊下を更に奥へと進んで行った。  広い廊下を抜け、外へと繋がる一風他の部屋とは形が変わった扉を開けると、そこは中庭だった。  扉から真っ直ぐ中庭の中央に向かって伸びる白い石畳。 その先には、さほど大きくはないが、満開に花を咲かせた桜の木が植えられていた。  未緒はそっと白い石畳の上に足を乗せる。 するとその途端、小さな小鳥達が五,六羽、未緒の周りに集まってきた。 小鳥達は未緒の肩や腕に止まるや否や次々と忙しなく話し始める。 「どうした? 何かあったの?」  耳を傾けてみると、どうやら皆同じことを口にしているようだったが、皆が同時に、またそれぞれの思いを告げていたため、未緒にはいまいち要点が理解できないでいた。  するとそれに勘付いたのか、一羽の小鳥が突然未緒の服の裾を嘴で引っ張り始めた。 力はあまり無いものの思い切り引っ張る動作により未緒は軽くバランスを崩しかける。 「ちょっ…どうしたんだよ…!?」  裾を引っ張る小鳥は引っ張ることに集中し、説明しようとしなかった。 更にそれを手伝うかのように他の小鳥達も未緒の服を嘴にくわえ始め、未緒は半強制的に小鳥達の後についていった。
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