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巣の周りでは小鳥達が嬉しさを表現するように飛び回っている。
「…ありがとう」
「はい?」
「『ありがとう』だって。あの子達が要さんにそう言ってる」
未緒は親鳥であろう愛しそうに雛鳥に寄り添う小鳥を見ながら彼らの言葉を伝えた。
「…そうですか」
要は一瞬未緒の発言に驚きの色を見せたが、その表情はすぐにいつものような優しげな微笑みを浮かべて、暫く雛を愛着する小鳥達を見つめていた。
無事、雛鳥の件を解決した未緒と要は一度屋敷内へと戻り、食堂に向けて廊下を歩いていた。
その間、多少木に登ろうとしたことについては要に注意を受けた未緒だったが、そんなことを言っている要自身、雛鳥を助けられたことを喜んでいるのを未緒は分かっていた。
「しかしあの雛鳥、もし未緒様が見付けにならなかったら今頃、危なかったでしょうね」
未緒の数歩先を歩く要は、その場合を嫌がるように口にする。
「ああ、あの子達が教えてくれなかったら、あの雛は死んでいたかもしれない」
「では、未緒様はあの雛鳥にとって命の恩人でございますね」
「いや、そんな大したことはしていない。それに雛を巣に戻したのは自分じゃないし」
「何を仰いますか。あの雛を見付けになったのは未緒様じゃないですか。それがあったからこそ、今の雛がいるのですよ」
食堂扉まで歩いてきた要は、そこで一旦話を切り、もう一度口を開く。
「未緒様は今日、一日の始まりに良いことをなさいました。今日はきっと未緒様にとってとても良い一日になるはずです」
「自分にとって…」
「はい、ですから今日は今日という日この日を楽しんで過ごして下さい」
要は優しく微笑みを浮かべると、ゆっくりと食堂の扉を開けた。
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