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…………。
……だ……お……。
……お前……れ…………。
……お前は……誰だ……。
「……俺は……」
「……俺は……誰だ…………誰なんだ!」
彼は目をゆっくりと開く。だが開いたところで彼の左目は物を映さない。
彼が理解していることは、彼の左目に流れ弾という「偶然」が接触し、左目から激しい痛みと生暖かい赤い液体が流れ、二度と黒以外を見ることが出来ない事ぐらいだろうか。
「生きてるのか……俺……」
自身が生きている――。
そのことに驚きを隠せないでいた。
左目を失った瞬間、自分の意識が遠退くのを感じ、てっきり死んだものだと思っていた。
しかし、消え行く意識の中一つの問いが聞こえた。
「お前は誰だ……」
彼はその問いに答えを見出だせずにいた。
そして出た答えが……
「俺は誰だ……」
そして、彼は意識を留めたのだ。
「………………」
崩れた瓦礫の上で横たわっている彼はその場を動こうとはしない。
いや、動けないでいたのだ。
まるで、金縛りでも遭ったかのように微塵も動けない。
「………………」
彼はそれに逆らおうとせずただずっと横たわっていた。
周りのあちこちで聞こえる人々の叫び声、銃声、爆発音。
業火に焼かれ崩れゆく町――。
その片隅で彼は深い眠りにつく。
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