雷跡2 帰れぬ道へ

2/27

1944人が本棚に入れています
本棚に追加
/428ページ
出航して3日。 原子力潜水艦(大和)以下4隻の艦隊は速力20ノットでハワイ・パールハーバーを目指して航海中だった。 「司令、やっぱり原潜はディーゼル艦とは違いますね。」 艦長の杉本貴志中佐が言った。 この艦隊のクルーは全員死んだ事になっている。 事故、病気、遭難、更には自殺となっているクルーもいる。 「そうだな、ウラン235の核分裂エネルギーは石炭の3000万倍。1Kgのウラン235が完全に核分裂した時には発熱量6700Kcalの石炭3000tを燃やしたのと同量のエネルギーだ。 しかもこの豊富なエネルギーで発電し海水を脱塩して淡水化しその淡水を電気分解して酸素を作るから、食料などを考えなかったら20万キロの無呼吸潜航を可能にしたこの日本初の原潜やまとにとって最適な心臓部といえよう。」 第56特務艦隊司令長官関本真架矢少将が答えた。 彼は防大を主席で卒業し、28歳という若さで2佐になり1年前、富士の樹海を散策中に行方知れずになっている。 そしてこの第56特務艦隊司令長官に任命されて二階級上昇し少将となった。 「司令、漫画の台詞ですか? まあ欠点を言うとすれば蒸気タービンはディーゼルエンジンよりも音がうるさいということですが、ロシアの原潜に比べれば自転車とトラックぐらいの静かさですよ。」 「漫画の台詞だな。」 と軽く笑いながら答える。 その時だった。 「推進音探知。距離四万。」 ソナー士が叫んだ。 「艦種は?」 すぐさま杉本が聞く。 「音紋解読の結果はロシア原潜のビクターⅢ型です。」 「何故こんな所にロシア原潜が。」 「発射音を感知。 原潜がミサイルとおぼしき飛翔体を撃ちました。」 「本当か、レーダー士。 進路は?この艦隊か?」 次は関本が聞いた。 「速度、大きさからしてこの飛翔体はミサイルです。進路はこのまま行くと東京です。サイズは中距離弾道ミサイルクラスのであと二分後に艦隊上空を通過します。」 「東京だと!」 殆どのクルーがおもわず叫び司令室がざわめいた。 「全艦に通達。総力を持ってミサイルを撃墜せよ」 まるで黙れと言うかのごとく一人、冷静に関本が怒鳴った。 「りょっ了解」 「目標α、方位1ー1ー4仰角15°、距離三万八千から方位2ー9ー4方向に移動中。 なを、毎秒760メートルの速度でなをも加速しながら上昇中。」 「目標、攻撃データ入力完了。」
/428ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1944人が本棚に入れています
本棚に追加