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帰る支度をし、教室を出ようとしたあたしを呼び止める薫。
あたしはチラッと時計に目をやり、保育園のお迎えまで余裕があるのを確認してから足を止めた。
「どうしたの?」
「懐かしい奴呼んだからさ。
ちょっとだけ待っててよ」
ニヤニヤと笑う薫に首を傾げる。
懐かしい奴…って誰?
聞いても教えてくれない薫に溜め息をつきながら、言われた通り教室に留まった。
5分ほど待っていると、バタバタと廊下を走る足音が聞こえる。
バンッと勢いよく開かれたドアから入ってきたのは、確かに懐かしい奴だった。
「薫ー、転校生は……ってお前、透!?」
「勇真!?
うわぁー、アンタは変わんないわね」
懐かしい奴…山村勇真(ヤマムラ ユウマ)は、驚いたように声を上げた。
こいつは薫の幼なじみで、同じ部活だったのが縁で仲良くなった。
「美人な転校生だって噂になってたから見に来ようと思ってたら、薫が放課後来いなんて言うから楽しみにしてたのに…」
そう言って、本気で残念がる勇真の脛を蹴り上げてやった。
勇真は足を押さえてうずくまると、涙目であたしを見上げた。
「てめぇっ…陸上部期待のエースの足を蹴り上げるなんてっ…!」
「あら、ごめんなさいねー。
足が長くて当たっちゃったわ」
長い間会っていなかったとは思えないような変わらないやり取りに、ふっと笑みが零れる。
勇真も同じなのか、あたしと目を見合わせて笑った。
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