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あたしは廊下を走り、その勢いのまま下駄箱の手前の角を曲がった。
その時、ちょうど反対側から人が歩いてきていた。
危ないっ…と思ったが時すでに遅し。
あたしは勢いよくぶつかってしまった。
「いっ……あっ、ごめんなさいっ」
あたしは尻餅をつき、痛みに顔を歪めながら慌てて謝った。
相手の人は踏みとどまったらしく、あたしの視界には足しか映っていなかった。
見たところ相手は男子生徒らしい。
「大丈夫?」
「あっ…はい」
そう言いながら手を差し出してくれたので素直に手を重ねた。
少しだけ聞いた事のある声のような気がしたけど、大して気にしなかった。
あたしは俯きながら立ち上がり、頭を下げたままもう一度謝った。
「本当にごめんなさい!!
あたし…前見てなくて…」
「いや、俺もちゃんと見てなかったし。
怪我とかしてない?」
明らかに走っていたあたしが悪いのに、その人は心配そうに声をかけてきた。
優しいなぁ…なんて思いながら、あたしはゆっくり顔を上げた。
「はい、大丈夫で……」
あたしは言葉を最後まで発する事が出来なかった。
時が止まったように感じて、呼吸をするのも忘れていた。
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