・糸、解く

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………どうすれば、いいのだろう。 どうすれば こんな想いせずに 済んだだろう。 過去を全て、忘れたい。 いっそのこと、 記憶喪失にでもなってしまいたい。 そうすれば、何事もなかったかのように 暮らせるのだ。 梨乃『……山西くん…………?』 「………」 梨乃『山西くん……』 「………」 梨乃『………どうしたの………?なんだかとても、辛そうだよ…?』  "辛そうだよ…" 「……気の……せいだよ。ごめん、ちょっと考え事してて…」 俺は我に反り、 包み込んでいた彼女を離した。 梨乃『………………山西くん………?』 俺は片手で顔を覆い、廊下の壁に寄りかかった。 梨乃『………ねぇ……』 梨乃『…………………泣いてるの………?』 泣いてるの? 「………―…泣いてなんか、ないよ。……泣きたいけど、泣けないんだ…」 心は泣いているのに 目は熱くなるのに 涙はやはり、出ないんだ。 「……岡本…………」 梨乃『………何…?』 「………俺、どうすればいいのかなぁー……」 ・
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