・糸、解く

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―――――――――… ――――――… ――… 美知子『したくは出来たかしら?』 その週の日曜。 俺はまた、こないだの格好をして行くはずであった、縁談相手の会社に向かうことになった。 「…はい、美知子おばさん」 『……そう。じゃあ、早く乗ってちょうだい。遅れるなんて、失礼ですからね。』 「はい。」 高級感でまくりの車に乗り込んだ俺は、これから行く先への緊張で胸がバクバクしていた。 「あの、美知子おばさん。」 『なに?』 「こないだ、電話で答えてもらえなかったので…。相手側の会社名って…」 『…あら、まだ言ってなかったかしら。』 「…えぇ、まだ。」 俺は、 作文を書いたあの日から、心に決めた事がある。 もしも、相手側の会社が岡本の会社であったなら …いや、たとえ違う会社だったとしても。 絶対に縁談話は断る。 そして、普通に学校に行き、普通に大学へ進学する。 俺には、夢ができた。 前にみていた夢を、また再び、将来の夢にして…。 いや、夢では終わらせない。絶対に。 俺は、医者になる。 そう、決めた。 おふくろや親父、おばさんには悪いが 俺は会社を経営するような自信なんてこれっぽっちもない。 そもそも、普通の生活をしてきた俺に 大手会社の後継ぎなんて無理なのだ。 そして何より、やりたくもない仕事をやったって、逃げ出したくなるだけだ。 絶対に、今日 全てを断る。 そのために俺は今日、 この車に乗ったのだから。 ―――――――――――― .
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