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員面調書を作成したのは木田だった。
三時間かけて書き上げた文章を、呆然と座る智恵に聞け閲読させる。
「これで君の供述の内容は、間違いないね」
と念を押し、大きくしっかりと頷いたので署名押印させる。
そして、
『以上のとおり、供述を録取し、読み聞かせ、閲読させたところ、誤りのないことを申し述べ、署名押印した。前同日。大阪府警中淀川警察署 刑事課強行犯捜査係司法警察員巡査部長 木田幸太郎』
と、奥書。調書は完成した。
また手錠がはめられ、腰縄が打たれ智恵が取調室から出てゆく。
去り際に少しだけ駒井と視線を交わした。
多少、伏せがちだったが、昨日までには見えなかった、かすかな輝きが垣間見えた。様な気がした。
帳場に戻ると田辺、戸上以下、強行犯係の仲間や中淀川署の皆が駒井と木田を待っていた。
「ご苦労さん」「お疲れ」ねぎらいの言葉が次々と掛けられる。
戸上だけが無言だったが、穏やかな微笑を見せて彼女の肩を叩いてくれた。
彼が駒井に取調べをさせることを捜査幹部に主張した。寺里は戸惑い、新川はとうとう激怒し帳場から姿を消した。
それでも戸上は彼女に掛けた。あのダンボール箱を抱え、埃まみれの凄さましい姿の彼女になにか決定的なものを感じたのかもしれない。
結局、寺里も調書は木田が書くことを条件に折れ、駒井と智恵との対峙は決まったのだ。
「それにしても、僅か五歳の子供が、自殺とはなぁ、切ないやら情けないやら、犯人が歌うても、なんかちっとも嬉ならん、打ち上げは無しや、家で嫁さん相手に自棄酒でもかっくらうわ・・・」
そう溢した田辺の口調はひたすら愚痴だったが、この場に居る全員の心情を代弁したものである事には違いない。
みなうなだれる様に頷く。
その後は送検へ向けての証拠資料の整理などの雑務が待っていた。
ダンボール箱の中の文章を取った写真や室内に残された物品のリスト等など、膨大な資料が手分けされ整理され分類されて行く。
検察に送る証拠類につける添付書類を作成していた駒井だったが、PCの画面を睨みながら、ふと軽くめまいを覚えた。
その様子を自分の画面の端から見ていた甲斐が言った。
「おい、ちょっと休んできてええぞ」
「いいえ、大丈夫です」そう言って見たかったが、身体は正直な物で思わず「有難うございます」と席を立っていた。
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