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「くそったれめ……」
轟々と炎の燃える部屋で、崩れた柱や壁の下敷きになっている男が悪態をついた。
元は豪奢な部屋だったのだが、燃え盛る炎により崩されていく今では、跡かともない。
「お前……」
男は、怪しい銀の十字架を備えた紫の瞳を、目の前で佇むもう一人の男に向ける。
「…………」
もう一人の男は憎悪に溢れた目を向けられても凛としていた。
いや、その小金色の髪で隠された青い瞳は、悲しみに揺らいでいたかもしれない。
陽炎に歪むに部屋の中、金髪の男は意を決したように目を、十字架の瞳の男に合わせる。
「考え直せいのか? 陽介」
「蒼馬(アオバ)……」
十字架の瞳の男の顔が憎悪に歪む。
「“あれ”があっても、この国に良い事は無いだろうが……」
「だから壊すか。“あれ”が壊れた時の反動が、何をもたらすか、わからないだろう?」
十字架の瞳の男は熱り立つ。
「その為の“覇王の力”だ!」
「……成功するか分からない。危険すぎる」
「それでも、やらなければ!」
金髪の男は俯いて、数拍の間を置いてまた、顔を上げる。
冷たい表情だった。
「……白光(ビャッコウ)」
「――っ!」
金髪の男の掌から溢れた白い光が、男を、炎を飲み込む。
「くそがああぁぁああ!」
後には何も、残らなかった。
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