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「さっきも聞いたけど、全部聞いちゃったのよね?」
あゆさんの問いに私は声を出さず一度頷いて答える。
「……まじか……」
「だったらもう話す必要は無いわね。
……じゃあ私たちは行くね。
一人になりたいでしょ?」
もうあゆさんには隠し事をしても無駄なような気がした。
何でも見透かされているような……そんな感じだった。
「あゆ?何を……」
「良いから!行くよ?」
何か言いたそうだった竜さんをあゆさんは強引に連れて行ってくれた。
……やっぱりあゆさんは何もかも分かってくれてる。
ガコン
開けるときと同じような音を立てて閉まる屋上の扉。
「ふぅ……」
ため息をつきつつ、校庭が見える位置に立つ。
「あっ……キョ……」
……校庭を走っていく一つの影。何の躊躇いも感じられない足運び。そして……私の眼下からあっという間に去っていく彼。
「……ぐすっ……キョウさぁん……」
無情にも早々と過ぎ去っていく時の流れ。
私は彼を見送る形になってしまった。
絶対に遭遇したくなかった瞬間。
……嫌でも彼の後ろ姿は私の脳裏に焼き付いていく……。
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