3章 返り討ち

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ピチョン ピチョン ピチョン 岩の天井から落ちてくる雫が、岩に滴り落ちる音が反響し合う。 そこは、闇が支配する地下洞窟だ。 剥き出しの岩、滴り落ちてくる水、横を見れば上から落ちてくる雫が何百年もかけて溜まった湖が見える。 光に照らされた美しいであろう湖も、闇の支配の中にいれば暗くて不気味なものでしかない。 そんな真っ暗空間の中に、闇がうごめいた。 いや、走ったと言ったほうがいいだろう。 それは走っているのにかかわらず、足音を消し、疾風の如くに駆け抜ける。 その先は地下洞窟の奥。 ひたすらそれは走り抜け、途中の横穴にさっと飛び込み、様子を見てからまた次の横穴へと飛び込む。 それも、決して物音をたてずに。 奥へと走ると、段々ほのかな光が見えてきた。 近くなるにつれてそれのスピードは遅くなり、忍び足でギリギリの所までその光の近くにまで忍び寄る。 丁度、大きな岩が覆い隠してくれたので、それは手持ちの武器を握り、光を放つ部屋を覗き込む。 彼は指折りの忍びだった。 与えられた任務は必ず遂行し、やり遂げる。 もし敵に捕まるようなことがあっても、彼ならば敵をも巻き込み自爆する道を行くだろう。 だがしかし、今回はそうするわけにいかなかった。 何が何でも彼は帰らなければならなかった。 彼の今回の任務はスパイ。 重要な情報を手にし、それを持ち帰る。 そのために彼はこうして忍び込んでいる。 だからこそ、帰らなければならない。 部屋を覗き込むと、そこには広大な部屋が広がり天井は高い。 廊下と比べてその床は平らに整えられ、大理石のように輝いている。 その部屋の中央に、円柱がまるで柱の如くに高い天井に向って伸びている。 円柱の下には太いケーブルが何本も根のように張り巡らせていた。 そのケーブルの先には、巨大な扉が。 円柱の中は気泡が下から上へと昇り、何らかの物体が浮かんでいる。 ふと、円柱の直ぐ下にとある人物を見つけた。 その者は、まるで感嘆しているようかに円柱に向って仰いでいた。 「あぁ、もう直ぐだ……。もう直ぐで、私のモノに……!」 その感激した声は、確かに彼の耳には届いていた。 そして、彼はその声とその見覚えのある背に、思わず息を呑んでしまう。 それがいけなかった。 「……鼠が一匹、入り込んでいたか」
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