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彼は迷わずその場から逃げたした。
風が駆け抜ける。
もう足音など気にしていられなかった。
おかしなことに、見つかったというのに追手の者が1人もこない。
だがそんなことも気にしていられないほどまでに、彼は動揺をしていた。
潜入する時よりも速く走り抜ける。
速く、速く――――。
このまま行けば何も問題なしに帰れただろう。
だが、彼は止まった。
短剣を右手に構え、その身に仕込んだ数々の暗器をいつでも出せるよう左手を空ける。
奴が現れるのはそう時間がかからなかった。
それは上から落ちてゆき、彼の前を立ちはだかった。
ドシイィィィイイィィン
砂埃が舞い、その巨大な音が洞窟中に響き渡る。
彼は、ここに来て初めて冷や汗が背筋を走ったのを感じた。
そんな彼の心情も露知らず、それは闇に浮かぶ巨大な目玉で彼を見下ろしていた。
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