第一部:1章 港町ヴェノム

2/8
121人が本棚に入れています
本棚に追加
/217ページ
光の大陸〈グローリア〉 六つの大陸の中で最も平和であり、「アックワ・サンティエーラ」と呼ばれる人間を聖女として崇め敬う「サンティエーラ教」と、呼ばれている宗教が普及されている大陸である。 そんな、グローリア大陸の南にある港町〈ヴェノム〉に、まるでゴンドラのような木造造りの船が一隻、港にとまった。 この辺では見掛けない船に、周りにいた人々はその船を物珍しそうに見つめる。 その船は紅色一色に塗られ、帆は見え方によって白になったり、薄い青になったり、銀色に変色するなど変わった色をしていた。 そして何より、この船の変わったところは、碇がないのと、オールが魚の鱗のような柄で何本も吊ってあったところだろう。 派手というべきか、それともキテレツなのか、どっちにしろそれが余計にこの船の異色さをきわだたせていた。 すると、船に乗っていた者が軽やかに船場に着地した。 女だ。 アオみかかった黒髪を後ろでお団子状に結わえ、淡い青色のリボンで結んでいる。 瞳は澄んだ空色の瞳。 色白で、小柄な体型にも関わらずその腰には、女には不釣り合いな剣を吊っていた。 その剣の鞘は、変わったデザインがほどこされていた。 女がた場所にまた1人着地した。 今度は男だ。 真っ直ぐに伸びた銀色の短髪で、左の横髪の一房にだけ凝ったデザインの筒を填めている。 黒の混じった赤色の瞳は切れ長で、その顔はクールな印象を与える。 右目の目尻から鎖骨までに、瞳と同じ色の刺青が彫られていた。 男の腰にも、女のと比べて一回り大きい剣が吊られている。 やはりこの剣もまた、変わったデザインが彫られていた。 人々が見守る中、女がめいいっぱい腕を空に広げ、伸び始めた。 「くうぅー!やっと着いたぁ。全く、船旅も楽じゃないね」 「当たり前だろうが」 隣りにいた男が呆れたように言うと、女は伸びをやめた。 それから、男の方に振り向くと拗ねたように唇を尖らせて言う。 「なんでキアは平気そうなのよ」 「俺とルリでは体力も力も違うだろうが」 キアと呼ばれた男はせせら笑うと、さっさと先に行ってしまった。 「……これでも力はあるつもりなのになあ」 ムッとした表情を浮かばせていたが、キアを見失う前にルリは後を追いかけた。
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!