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本当は病室から出たくて、遊に会いに行きたかった。だけどまわりの大人たちは、病室の外に出る事すら許さなかった。
…想像がついている人は、ついているかもしれない。分からない人は、まだ分からないかもしれない。
分からなければそれでいい。なぜなら、この時、まだ私は分からなかったから。
やっと目の包帯がとれ、私の目は開いた。
まぶしかった。
世界が見えてから、私は遊を探した。606号室にもいなかった。どこにもいなかった。死んでしまったのかもしれない。生きているのかもしれない。でも、やっぱり死んでいる可能性が高かった。
12色のクレヨンより、実際の世界はもっともっと何百色も色があった。
空の青。
ベットの白。
ベゴニアの赤や紫。
スリッパの黄色。
そんな色たちが確かに見えるはずなのに、わずかにうすく白っぽい灰色がかかっているようだった。まだ私の心には黒いクレヨンがひそんでいた。それはやっぱり、遊がいないから。
毎日毎日、私は病院の中で遊を探した。そして疲れ果てて眠った。
ある晩、私は夢を見た。それは、まだ目の見えていない私が楽しそうに笑っているのを、ただ見ているだけの夢だった。そしてそれを見ていくうちに、胸が熱くなって、これは遊の目線なのだと分かった。
あぁ…そうか…
この…私の…
今、見えている私の目は…
これは、遊の『目』なんだ…
ようするに、遊は死んで、私は彼の目を移植されたのだ。
きっと、遊が死んだのは、あのプレゼントの話をした夜だろう。
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