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朝になった。私はゆっくりと身を起こした。涙が流れた。これは、何色だろう。気のせいではない。涙は悲しい色に見えた。
「…あれ…?」
枕元に、いつの間にか大きなクマのぬいぐるみがいた。そしてそのクマの足元には、分厚い封筒が置いてあった。
すぐに遊からだと思った。これは遊からのプレゼントで、遊の代わりに誰かが置きにきたのだと。
思わず、クマを抱きしめた。わずかに遊の匂いがした。もうすぐ夏なのに、胸を冷たい風が通りぬけていった。
『ななみへ』
不器用な字で、言葉がつづられている。
『分かっていると思うけど、僕はもう死んでいるよ。だから、僕の目をあげる。』
最初からなんて酷いんだろう。私が今泣いているのを、遊は見ているんだろうか。
『僕は、ななみが好きだよ。たとえお父さんがお父さんじゃなくても、ななみを好きになっていたと思う。あの時言った言葉は嘘じゃない。
このクマは僕の代わり。忘れて幸せになってなんて、やっぱり淋しくて言えない。
どうか、忘れないで。
僕がななみの一部になって生きているという事。そして僕がななみを誰よりも好きだという事を。
僕は、幸せだった。そしてこれからも。』
普通、忘れろって言うでしょ…?
信じられない。
今なら、あの時言っていた言葉の謎のすべてが分かるのに。今なら、胸をはって遊が好きだと言えるのに。
なのに遊がいない。
遊のおかげで見えた光。見えた色たち。
いらない。いらない。
あなたがいないと。
隣にあなたがいないなら、全て闇。全て無色。
ただ遊に傍にいてほしかった。
涙をぬぐう事もせず、いてもたってもいられなくて、私は全速力で病院の屋上へと走った。
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